Back Insects  ビートルズを訪ねて [T]

バックインセクツのメンバH・SとM・Aの二人が、ビートルズを訪ね、1992年の夏にイギリスの土を踏んだ時の物語です。とくと?お楽しみください。

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 (3)2日目後半[ロンドン] (2004/4/4 掲載)
by H.S(→メンバー紹介

 ロンドンの名所

        

 よく晴れた気持ちの良い日だった。ロンドン市民の憩の場、トラファルガー広場だ。小学生の頃読んだ「キャンディ・キャンディ」という少女漫画のシーンと全く同じだった。ライオンの像に人がまたがり、噴水の回りに本を持った学生風の人達が座っていた。(ちなみに私は小学生のころ少女漫画が好きでキャンディ・キャンディやはいからさんが通る、エースをねらえなど全巻持っていた)

 我々もそこで一服をして今度は世界の中心?へ向かう。テムズ川の右岸だ。船でも行けるようだが、私はダメ。自分で車を運転していても酔うくらいだから、船など持っての他。歩いて行くものきつい。

 そこでタクシーに乗ることにした。ロンドンのタクシーはこれまたなかなかごつい。黒塗りで中はかなり広い。というかがらんとして殺風景である。そのシンプルさ、頑丈そうな車体がまた、イギリスの気概を感じる。そうして着いた場所がここ、世界の中心?だ。

        

 この地面に埋め込まれた金属棒がそうだ。何だか分からないね。これは本初子午線。つまり東経・西経0度ということだ。社会科では必ず習う。地球上に人間(イギリス人)が引いた経線の中心である。そこはグリニッジ天文台。

       

 誰もがこの子午線をまたいで写真を撮る。「俺は世界を一跨ぎしたんだ」と得意げな顔をして。もちろん例に漏れず、我々も写真を撮る。それはまさに19世紀のイギリス人よろしくと言った顔なのだろう。

 グリニッジ天文台からロンドンの街並みを見下ろす展望台にはWorld Mapがあった。中心はイギリス。我等が日本はまさに東の端、極東と言う言葉がその地図にはマッチする。我々が目する世界地図とは大分趣が違う。ヨーロッパの国々から見れば日本に対する意識はそんなものなのだろう。世界を一跨ぎした日本人の私は何か釈然としない思いに駆られながら、それでも眼下に広がる芝生と陽気に誘われ、天文台のショップで買ったテニスボールで野球に興じたのであった。


 ロンドンの夜  

 ロンドンの夏は昼間の時間が長い。強硬スケジュールでこれだけ1日で廻れるのもそのお陰だ。グリニッジを後にした我々は、課題の食事に取り組まなければならなかった。日はまだまだ高かったが、時間的には夕食の時間だ。

 ロンドンの街中を歩いていると路地を曲がったところに何と「三越」があった。そう、日本の百貨店だ。「おい、デパートならレストランあるよな」M・Aが言うと「そうだな。日本語のメニューだろう」と私も頷く。意を得たように二人は「三越」に入ることにした。

 思った通り、レストランがあった。中に入ると日本人風のウェートレスがやってきてメニューを置いた。「やっぱり、日本人だよな」そう言うとメニューに目を落す。英語と一緒に日本語で記載されたメニュー。イギリス二日目にして既に日本食が恋しいなんて、情けない。と言いつつも二人で寿司を頼んだ。ついでにクリームソーダを頼もうとすると、通じない。ウェートレスは東洋系の容姿ではあったが、日本語は出来なかった。

 実はクリームソーダは香港空港で乗り換えた時にもチャレンジしていた。メニューを確かめもせず、ウェートレスに「クリームソーダ、プリーズ」とオーダーした。ウェートレスは「OK」と言って下がって行ったので、「クリームソーダあるんだなあ」と感激していた。ところが出てきたのは「ライムソーダ」だった。所謂チュウハイみたいな奴だ。がっかりしてそれを飲んだのだが、その時からクリームソーダは私の今回の旅行の課題になったのだ。

 「三越」のレストランだ。クリームソーダくらいあるだろう。そう思い、やはりメニューを確かめもせず「クリームソーダ、プリーズ」と頼んだ。ウェートレスは何度か私に聞き返したが、要領を得ず、厨房に下がって行った。「ようし、今度こそクリームソーダだ」と私が言うと、M・Aは「おい、メニューには無いぞ」と嗜める。「大丈夫だよ」期待して待っていると、中から店長らしき男が出てきた。

 「お客様、ご注文はクリームソーダですか?」日本人だった。「そうです」と答えると店長は「申し訳ありません。当店ではクリームソーダは扱っていません」と言われた。イギリスではクリームソーダは売っていないようだ。それにしてもこんなうまいもの、絶対売れると思うのだが…。多少の気落ちはあったものの、日本食を食べ、元気が出た。


 マーキー

 夕食後に行ったのは、「マーキー」というライブハウスだった。あのストーンズやジミ・ヘンドリクスが出演したことがあるという由緒ある店である。その夜の出演バンドは「ブレッシング」というバンドだった。中はそれほど広くはなく、オールスタンディングスタイルの店でテーブルや椅子は置いていなかった。カウンターで飲み物を注文して受け取ると、ガランとしたステージ前にM・Aと二人で佇んだ。

 しばらくするとバンドメンバーがステージに上がり、演奏が始まる。アングロサクソン系のボーカルがギターを持って歌い、黒人系のリズム感の良いベースとドラム、キーボードといった編成で乗りの良いロックンロールを聞かせてくれた。大きい箱ではないが、音がクリアで良い感じだった。ここでジミ・ヘンドリクスが「Sgt.」をやったのかと思うと、身震いがした。

 ところが、ステージ脇にいる若いイギリス人のあんちゃんが全く演奏も聞かず、喋っている。どっかの良いとこの坊ちゃん風である。(将来はケンブリッジあたりか…)年の頃は分からないが、高校生か、下手すると中学生くらいだろうか?バンドのメンバーも最初は無視していたが、気になったのか、やんわりと声をかける。しかし、全く聞く様子もない。次第にホールの雰囲気が悪くなって行く。最初は面白がっていた周りの女の子たちも「やめなさいよ」(英語だろうけど、そんな感じに見えた)みたいな感じになってきて、そのうち、ホールの全ての人間を敵に回した。

 結局、彼らは薄笑い(虚勢の態度だろう)を浮かべながら帰っていった。全く、どこでもああいう奴はいるのだなあ、と思いつつ、いつも言っている「自分だけが面白ければ良いのではなくて、みんなが楽しめるように」ということが頭に浮かんだ。気を取り直した「ブレッシング」はさらにパワフルな演奏を聴かせてくれるのだった。


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